科学を伝える! 10+1の原則

最近、私は「映画の心理学」を受講している学生とともに、学術研究に基づいたレポートを書く作業をしている。この夏あたり、彼らが書いたレポートを公表できるかもしれない。このブログ(CogDaily)の読者は、学生たちと私が共有した原則に興味を持つだろうから、今回はその原則について書いてみよう。これを読んで何か思うことがあれば、遠慮せずコメントして欲しい。

photo by moria

10の原則一覧

  1. おもしろい研究を探す
  2. まず、何が目新しいのかを示す
  3. 研究そのものに語らせる
  4. 詳細すぎる事項を含めない
  5. 専門用語を使わない
  6. 物語にしよう
  7. 言葉に気を使うのと同じくらい、ビジュアルの使用に気を使う
  8. 手短に、しかし詳細に
  9. 出典元を明示する
  10. 過剰表現はしない

10+1の原則

1. おもしろい研究を探す
初めのステップとして、言うまでもない。しかし近頃の研究発表には、いくつかの問題点がある。まず何よりも、興味深い・面白いことが新しいとは限らない。科学雑誌は、最新号を出す際に派手な表現をしたがる。なぜかって? 多くの人が認知するほど、雑誌の購読者が増えるからだ(もしくは図書館に購読するようリクエストするようになる)。

一般の人々は、毎日プレスリリースを読んだりはしない。大衆受けするのは、生活に即した研究、もしくは無視するのは惜しいと思えるくらいにカッコイイ研究だが、こういうものは往々にして数ヶ月、または数年前になされた研究だ。頭に留めておくべきは、聞いたことがなければ、(一般の人々にとって)それは新事実であるということ。ちなみに、このブログ(CogDaily)で最も人気があったのは、 2年前の研究をもとにした記事だった。


2. まず、何が目新しいのかを示す
研究が面白い理由=実用的・・・とみなすのは、大きな間違いになりかねない。理由は様々なのだ。たとえば、門外漢の読者にとって目新しいものの見方をもたらすかもしれない。もしくは常識を疑う視点をもたらしたり、ちょっとした問題が思っていたよりもずっと複雑な問題であることがわかったりするかもしれない。別に、実用に適用できる研究がつまらないと言っているわけではない。何が面白いかを決める定式はないと言っているだけだ。

論文を見て最初に感じたことは、だいたい正しい。初めに読んで面白かったか否かが、記事として取り上げるかどうかの分かれ目になる。論文は導入、実験方法、結果、考察という定型的な書き方になっているが、私たちはどこから書き始めても構わない。我々のゴールは論文誌に載せるかどうかの審査に通ることではない。読者を引きつけ、科学の面白さを伝えることだ。ただし(そうでもない)研究を面白いと見せかけるのは、いただけない。


3. 研究そのものに語らせる
このブログを始めてから2年間、私は読者の旺盛な好奇心に感銘を受け続けている。人々は科学者の出した結論だけではなく、どのようにしてその研究がなされたのかを理解したがっている! 私達は科学研究にまつわる記事を書く際に、実験方法について詳しく書きたくない・研究によって算出されたデータを無視したい・論文中で取り上げられている関連研研究について言及せずに済ませたい・・・このような誘惑たちから逃れなくてはならない。たとえば、 この記事を見て欲しい。このような記事では読者は満足しない。もっと突っ込んで書かなくては。しかしその一方で、次のことも忘れてはならない。

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4. 詳細すぎる事項を含めない
科学論文集にる論文は、主に研究者・関係者のために書かれており、他の研究者が同じことをしても似通った結果を得られるよう意図される。しかし言うまでもなく、ほとんどの(普通の)読者はそんなことをしない。だから何人の被験者がいたか、どのブランドのコンピュータが使われたか、正確なパーセンテージ、・・・こういったことは(研究内容に直接関係なければ)記事に含めなくていい。
このことは、次のポイントとも密接に関わっている。


5. 専門用語を使わない
これは、どんなに強調しても強調しすぎることはない。あなたの読者の大半は科学者じゃない。科学者はしっかりとした研究論文を読みたがるけど、彼らは主要な読者じゃない。それに彼らは自分でオリジナルの論文を読むことができる。仮説、信頼間隔、刺激、分散分析のような科学用語、それから研究者が文中にバラまきたがるp, r, F, t等の記号から、ちょっと離れよう。研究者は略語を好んで作る。1本の論文でしか使わないような略語をね! そんなことは避けよう。略語を使う代わりに、その背景にある概念を説明しよう(もしくは単にスペルを書くだけにしよう)。もし専門用語を使わなくちゃいけないなら(通常、論文中で繰り返し使われているときのみ必要)何について話しているか説明し、可能なら更なる情報へのリンクを添えておこう。


6. 物語にしよう
多くの研究者は素晴らしいライターであるが、彼らは報告書のフォーマットに縛られてしまっている。先にも述べたように、ほとんど全ての科学分野において、論文は導入から書き始められ、実験方法、結果、考察が述べられる。4つの実験を用いる研究であれば、このような流れが4回繰り返されることになる。また論文の始めに仮説を述べ、論文の最後にもう一度その仮説をとりあげ、実験結果がその仮説を裏付けるものかどうかを述べることが多い。

私たちはこのような制約に縛られる必要はない。私たちの目的は、読者のハートを掴むことだ。彼らの好奇心を満たすように、リサーチの内容をざっと見せてあげよう。だいたいは、手短かに興味をひくような逸話から始める。しかしここでは研究の概要を示したり、関連研究を振り返るだけでいい。コツは、面白いことから語り始めること。だが、いくつかの疑問は未解決のままにしておく。そうすれば読者は最後までついてくる。これはつまり、記事中では、リサーチの一部が忘れ去られることもあるということだ。実験すべてを飛ばしてしまったり、一部の結果にしか言及しなかったりすることもあるかもしれない。正しいことを伝えている限り、とりあげている論文すべてを要約しなければならないというルールはないのだ。


7. 言葉に気を使うのと同じくらい、ビジュアルの使用に気を使う
絵や図版などのビジュアル素材は、ややこしい題材をわかりやすくしてくれるが、扱いには気をつけなければいけない。論文中の言葉と同じく、論文中のビジュアル素材も、科学者たちのために創られていることを忘れちゃいけない。 以前掲載した記事で用いた、以下のグラフ(「役者がセリフなしで感情を込めて演技する様子を見て、閲覧者がその演技にこめられている感情を回答する実験」の結果をグラフ化したもの・グレイの棒が「表現されている」と回答を得られた感情、白い棒が「表現されていない」感情)を見て欲しい。


非常にわかりやすいグラフだろう。閲覧者は、役者が表現した感情を評価している。しかしこのグラフにはいくつか問題がある。まず第一に「表現されている」感情とあるが、どのようにして「表現された」「表現されていない」を、区別するのだろうか。記事によると、閲覧者は(役者の演じる様子を撮影した)ビデオを見て、それぞれの感情について、役者が表現していたものか否かを評価する。しかしここで、X軸が混乱を引き起こしている。そこで、私は下記のようにX軸を変更した。

グラフをよりシンプルにするために、私は誤差を表すエラーバー(1つ目のグラフにあった縦線のこと)を削除した(これについては読者の間でも評価がわかれている)。そして色をつけて、グラフについて議論しやすくした(「黒いほうのグラフ」「水玉のグラフ」と言うよりも、「赤」「黄色」と


今回の結果は、より整合性のないものになった。閲覧者は怒り、喜び、悲しみ、そして愛情を読み取れる一方、恐怖と嫌悪感についてはうまく読み取れていない*1

図版を使うときは、必ず説明を添えよう。何故それが重要なのかも示そう。

ここで重要なことをもう1つ言っておく。語るべき内容にそぐわない画像を使ってはならない。ただ「かわいく」見せかけるために、記事を飾り立てる必要は無い。研究においてネズミの行動を議論しているからといって、ネズミの写真を含めてはならない。実験動物として使用しているなら、あってもよいかもしれないが。


8. 手短に、しかし詳細に
サイエンスリサーチに関する記事は、オリジナルより短くあるべきだ。私はこのブログの記事を(英単語で)1000ワード以下にするよう心がけている。もし科学論文の記事が特別ややこしい場合は、2つに分けて取り上げるか、結果の一部をカットする。
簡潔な言葉で述べるということも記事の短さと同じく重要だ。シンプルな言葉で表現できるときに、大げさな表現を選んではならない。、サーチ自体も十分複雑なのだから、自分の言葉でややこしくする必要はない。


9. 出典元を明示する

レポートの最後に、引用元をきちんと載せよう。主要メディアがこれをしないせいで、どれだけひどいことになっているかは筆舌に尽くしがたい。自分のブログに含める情報源はどのようなものであれ、リンクしよう。画像を拝借したら、拝借元へのリンクを張る。当然ながら、無断使用はいけない。誰かの言葉を借りたら、引用記号で囲み、読者にその言葉の出典元を伝えなければならない。


10. 過剰表現はしない
「あるある」はひどすぎる例かもしれないが、科学記事において、過剰表現は頻繁に繰り返されている。科学を正しく伝える姿勢を忘れないように。原因と結果の関係性(因果関係)を取り違えてはならないし、結論を過度に一般化してはならない。私たちライターやメディアは、研究者が自身の成果をどう格付けするか、主導権を握ることができる。その研究を退屈そうなものにすることもできるし、疑問形で終わらせたり、「おそらく」「かもしれない」と言ったりして、論争を巻き起こしそうな表現をすることもできる。だから、よくよく気をつけなければいけない。「研究者は新しいガンの治療法を発見したか?」では、誤解を引き起こしかねない。
また一方で、審査を経た研究を記事にするように意識しよう。学会発表は(通常は)審査を経ていない。また研究者のウェブサイトに載っている論文は、審査を終えていないものが多い。もし審査を経たかどうか確かでなかったら、論文集もしくは論文の載っていたウェブサイトのポリシーをチェックしてみよう。


11. 楽しんで伝えよう!
ジョークを織り交ぜよう。研究について調べているうちに思い出した面白い話があったら、それを話題にしてみよう。読者は行間から伝わる、私たちのキャラクターに興味がある。しかし、やりすぎてはならない。重要なのは科学を伝えることであって、1人芝居ではない。

感想 by id:kany1120

出典元:Cognitive Daily: How to report scientific research to a general audience
はてなブックマークid:phoが「訳してみようかな」と言っているのに乗っかって翻訳し始めました(奪ったという表現のほうが正しいかも。半分以上私が翻訳してしまいました)。一時は科学ライターを目指していた身として、色々思いながら翻訳しました。科学について書くのと同様、翻訳も難しいけど楽しいです。
「journal」「peer-review」のような専門用語的な語彙や、7.のように別エントリーを参考にしながら説明しているところの訳し方が難しかったです。

調べた単語

  • concise
    • 簡潔な
  • conference
    • 学会
  • stand-up
    • 1. 立っている、立ったままでする 2. (役者が)独演する 3. 真っ向から対立した

*1:原文直訳:「他の感情の「表現されない」程度に評価されている」ですが、よくわからないので訳者の独断で変更しました。ご了承ください。